海があり、山があり、畑がある。三陸の大槌町にはさまざまな自然の恵みがあり、その恵みを糧に生きている人たちのなりわいがあります。一方で、日本全体で人口減少が進む中、大槌町でも少子高齢化が加速し、働く人が不足しています。そんな一次産業の抱える課題を解決し、若い人たちが憧れる魅力的な働き方にしていくため誕生したのが、おおつち百年之業協同組合です。
農林漁業
自然を糧にするなりわいの課題
春はわかめ、新緑のころの大槌サーモン、夏のウニ……四季折々に旬を迎える海産物があり、海のまちのイメージが強い大槌町ですが、実は面積の87%は山林で、町の西郡には北上山系の東縁にあたる新山高原が広がります。
畜産や「大槌ジビエ」として知られる鹿肉、伐採や木工などの林業、そして2本の河川の領域には、田んぼやピーマン、花卉類などのビニールハウスが連なり、農業が営まれています。
漁業、林業、農業という3つの一次産業が揃う大槌町で大きな課題となっていたのが、一次産業の担い手不足。その背景には、働く世代の人口減少はもちろんのこと、若者が一次産業の世界で働きづらい現状があると、おおつち百年之業協同組合事務局の谷村優布子さんは言います。
「一次産業には季節限定の仕事も多く、積雪する新山高原では冬場は牛が飼育されていなかったり、養殖サーモンやウニ、あわびなどの水揚げも短い期間限定だったり……。収入が安定せず、雇用保険や労災に加入しない働き方になっている人もいるのが課題でした」
地域の一次産業者や大槌町役場の担当者は「期間限定の一次産業を組み合わせながらもっと安定した働き方ができるようになれば、大槌町で一次産業を選ぶ若者が増えるのではないか……」そう考えていました。
担当者が全国のさまざまな事例を調べる中で知ったのが、2019年に国が制度化した「特定地域づくり事業協同組合」。すでに全国いくつかの自治体で運用が始まっていて、一次産業同士を組み合わせたり、スキー場や観光の仕事と一次産業を組み合わせて運用している地域もあることが分かりました。
大槌町でも特定地域づくり事業協同組合の制度導入を推進したい役場担当者。ちょうどそこに地域おこし協力隊として着任したのが、町内の働く場の環境の整備に関心を持っていた谷村さんでした。2人の想いが合致し、事業は動き始めることになりました。
春はわかめ、新緑のころの大槌サーモン、夏のウニ……四季折々に旬を迎える海産物があり、海のまちのイメージが強い大槌町ですが、実は面積の87%は山林で、町の西郡には北上山系の東縁にあたる新山高原が広がります。
畜産や「大槌ジビエ」として知られる鹿肉、伐採や木工などの林業、そして2本の河川の領域には、田んぼやピーマン、花卉類などのビニールハウスが連なり、農業が営まれています。
漁業、林業、農業という3つの一次産業が揃う大槌町で大きな課題となっていたのが、一次産業の担い手不足。その背景には、働く世代の人口減少はもちろんのこと、若者が一次産業の世界で働きづらい現状があると、おおつち百年之業協同組合事務局の谷村優布子さんは言います。
「一次産業には季節限定の仕事も多く、積雪する新山高原では冬場は牛が飼育されていなかったり、養殖サーモンやウニ、あわびなどの水揚げも短い期間限定だったり……。収入が安定せず、雇用保険や労災に加入しない働き方になっている人もいるのが課題でした」
地域の一次産業者や大槌町役場の担当者は「期間限定の一次産業を組み合わせながらもっと安定した働き方ができるようになれば、大槌町で一次産業を選ぶ若者が増えるのではないか……」そう考えていました。
担当者が全国のさまざまな事例を調べる中で知ったのが、2019年に国が制度化した「特定地域づくり事業協同組合」。すでに全国いくつかの自治体で運用が始まっていて、一次産業同士を組み合わせたり、スキー場や観光の仕事と一次産業を組み合わせて運用している地域もあることが分かりました。
大槌町でも特定地域づくり事業協同組合の制度導入を推進したい役場担当者。ちょうどそこに地域おこし協力隊として着任したのが、町内の働く場の環境の整備に関心を持っていた谷村さんでした。2人の想いが合致し、事業は動き始めることになりました。
理系の地域おこし協力隊が
組織立ち上げに奔走
県内の一関高専出身で「完全な理系」を自認する谷村さん。前職ではシステム管理などの仕事をしており、新たな組織の立ち上げにかかわるのはまったく初めてのこと。町の担当者と連日長時間にわたって打ち合わせをし、まずは、意欲の高い一次産業者に声を掛けて、意見交換の場を作ることにしました。
そこに集ったのが、酒米づくりの名人として地域からの信頼が厚い農事組合法人 大槌結ゆいの佐々木重吾さんや、鳥獣被害対策のための鹿の捕獲や加工に取り組むMOMIJI株式会社の兼澤幸男さんら5人でした。
地域の一次産業の実情に詳しい5人は、やはり町担当者と同じく、働き方が不安定になりがちなことを大きな課題と感じていました。中でも佐々木さんは、これから一次産業に参入したいと考える若者に相談を受ける機会も多く、働き方が向上すれば、農業を志す人が増えるに違いないと考えていました。
この意見交換を重ねる中で、谷村さんらは、国が進める「特定地域づくり事業協同組合」の制度を説明。この制度を活用することで、組合と雇用契約を結んだ“マルチワーカー(派遣職員)”は町内の2カ所以上の事業所で働き、その給与はまとめて組合から支給されるという複雑な仕組みとそのメリットをかみ砕いて伝えました。
小規模な一次産業者がワーカーと雇用契約を結ぶのは難しくても、組合が社会保険等への加入を完備しているため、業務の繁閑や収入に左右されず、安定して長く働けるというメリットを聞き、5人は「大槌でもぜひ導入したい」という意見が一致しました。
県内の一関高専出身で「完全な理系」を自認する谷村さん。前職ではシステム管理などの仕事をしており、新たな組織の立ち上げにかかわるのはまったく初めてのこと。町の担当者と連日長時間にわたって打ち合わせをし、まずは、意欲の高い一次産業者に声を掛けて、意見交換の場を作ることにしました。
そこに集ったのが、酒米づくりの名人として地域からの信頼が厚い農事組合法人 大槌結ゆいの佐々木重吾さんや、鳥獣被害対策のための鹿の捕獲や加工に取り組むMOMIJI株式会社の兼澤幸男さんら5人でした。
地域の一次産業の実情に詳しい5人は、やはり町担当者と同じく、働き方が不安定になりがちなことを大きな課題と感じていました。中でも佐々木さんは、これから一次産業に参入したいと考える若者に相談を受ける機会も多く、働き方が向上すれば、農業を志す人が増えるに違いないと考えていました。
この意見交換を重ねる中で、谷村さんらは、国が進める「特定地域づくり事業協同組合」の制度を説明。この制度を活用することで、組合と雇用契約を結んだ“マルチワーカー(派遣職員)”は町内の2カ所以上の事業所で働き、その給与はまとめて組合から支給されるという複雑な仕組みとそのメリットをかみ砕いて伝えました。
小規模な一次産業者がワーカーと雇用契約を結ぶのは難しくても、組合が社会保険等への加入を完備しているため、業務の繁閑や収入に左右されず、安定して長く働けるというメリットを聞き、5人は「大槌でもぜひ導入したい」という意見が一致しました。
「大槌の一次産業に若者を」
マルチワーカーが各地で活躍
検討が始まって11ヶ月後の2023年8月。意見交換に参加してきた5事業者が発起人となり、おおつち百年之業協同組合が正式に発足しました。
組合の設立のために、法律を調べ、先行して導入を進めている自治体や岩手県庁に問い合わせるなどしながら、準備を進めてきた谷村さんは「今のままのやり方だと一次産業に若い人が来てくれないという強い危機感を事業者も町も私たちも共有していたからこそ1年という短期間で実現できたと思います」そう振り返ります。
マルチワーカーとして働くのは現在、30~50代の5人で全員、町内の出身・在住者。好奇心旺盛で「さまざまな仕事を経験したい」という人もいれば「農業の生産者になりたい」「草刈りが生きがい」というまでさまざま。「コミュニケーション能力が高い人はどの事業者にも重宝され、やりがいを感じながら働いてくれています」と谷村さん。
スタート時は2人だったワーカー。雇用できる人数を増やしていくために、事務局には新たに千葉広樹さんが加わり、ワーカーを必要とする事業者の開拓や、町内の事業者が抱える経営課題の聞き取りなどを進めています。
町出身の千葉さんは「事業者と話をする中で、自分が生まれ育った町には、課題もあるけれど、まだまだ可能性もたくさんあることを実感した」と手応えを感じています。
百年続くなりわいを大槌に——。その想いで始まったおおつち百年之業協同組合は、百年先の未来のために歩みを進めています。
(2025年8月取材)
検討が始まって11ヶ月後の2023年8月。意見交換に参加してきた5事業者が発起人となり、おおつち百年之業協同組合が正式に発足しました。
組合の設立のために、法律を調べ、先行して導入を進めている自治体や岩手県庁に問い合わせるなどしながら、準備を進めてきた谷村さんは「今のままのやり方だと一次産業に若い人が来てくれないという強い危機感を事業者も町も私たちも共有していたからこそ1年という短期間で実現できたと思います」そう振り返ります。
マルチワーカーとして働くのは現在、30~50代の5人で全員、町内の出身・在住者。好奇心旺盛で「さまざまな仕事を経験したい」という人もいれば「農業の生産者になりたい」「草刈りが生きがい」というまでさまざま。「コミュニケーション能力が高い人はどの事業者にも重宝され、やりがいを感じながら働いてくれています」と谷村さん。
スタート時は2人だったワーカー。雇用できる人数を増やしていくために、事務局には新たに千葉広樹さんが加わり、ワーカーを必要とする事業者の開拓や、町内の事業者が抱える経営課題の聞き取りなどを進めています。
町出身の千葉さんは「事業者と話をする中で、自分が生まれ育った町には、課題もあるけれど、まだまだ可能性もたくさんあることを実感した」と手応えを感じています。
百年続くなりわいを大槌に——。その想いで始まったおおつち百年之業協同組合は、百年先の未来のために歩みを進めています。
(2025年8月取材)